お母さんの想いと子の想い

かつて担任をしていた高校生の女子生徒。
いつもニコニコ笑顔ではいるものの、何か心の傷を抱えていそうな…そんな雰囲気を感じていました。


ある日、その生徒は授業中に具合が悪くなって保健室で休んでいたのですが、授業には戻れそうにないので早退させることにしました。


一人で帰らせるわけにはいかないくらいフラついていたので、お母さんにお迎えに来てもらおうと本人に話したところ、頑なに「大丈夫です」と言って教室に戻ろうとしました。


フラフラしているし体も小刻みに震えているので教室に戻すわけにはいかないと伝え、本人の体をさすりながら「お母さんにお迎えの電話するからね」と伝えると、「お母さんには知らせないでください!」と、涙を浮かべて訴えてきました

安全確保の観点から、本人の意思には反してお母さんにお迎えに来てもらったのですが、お母さんに心配をかけさせたくないという一心だったようです。

お母さんの話によると、その生徒は小学校時代に不登校だったとのこと。
2年ほどの不登校期間を経て学校には戻れたものの、本人は常に何かを心配しているような、そんな様子だったと言います。


それが希望の高校に受かり、「高校生活はすごく楽しい」と家では嬉しそうに話しているのだそうです。


が、


家庭での様子と学校での様子、はたまた学校で本人が私に話してくる内容とずいぶん乖離があるとわかり、学校での様子の一部を伝えると、お母さんはその場で大粒の涙を流し始めてしまいました。


どうやら家では、特にお母さんには、何一つ困りごとはないと話しているそうなのです。


しかし本人は私に、「いつもちゃんとしなきゃと思って、不安で仕方ないんです」とこぼすことが多々ありました。


お母さん曰く、中学校時代も、担任の先生から学校での話を聞いて愕然としたことがあったそうです。


「あの子は私に本当のことを言わずに、そうやって嘘をつくんです」と、大粒の涙を浮かべていました。

お母さんの涙を見て、そういうことか…とわかりました。


お母さん、今まで本当にお子さんを大切に大切に育てて来てらしてて、大切だと思うが故に、先回りの心配もたくさんしていらしたようです。


少し詳しくお話しを聞いてみると、「慎重な子だから怖い思いをさせたくなくて、私がある程度準備をしてきていました」と話してくださいました。


どうやらお母さんがある程度のレールを敷いて、子どもにそこを走らせる。


止まりそうになったら、止まらないように先導してあげる。


それでも止まってしまった時は、自分の先導の仕方が悪かったと反省する。


これが常だとお話しくださいました。

お母さんは一生懸命自分のことを想ってくれている…


子どもはわかっています。


だからこそ、お母さんに心配をかけさせたくないのです。


お母さんが悲しまないように…  
お母さんを悲しませてはいけない…
お母さんを悲しませる私はだめなんだ…


そんなふうに、子どもは自分の中で意味づけをしてしまうんですね。


だからお母さんの前では大丈夫な自分を装ってしまうんです。


冒頭の「お母さんに言わないでください」も、お母さんに心配をかけさせたくないからなのですが、お母さんが知ったら大変なショックを受ける言葉でしょう。


「お母さんに甘えていいんだよ?」と本人に言ったことがあるのですが、「私がちゃんとしてないとお母さんは悲しむので」という言葉が返ってきました。


お母さんを悲しませてはいけない…


本人の中では、それが何よりも最優先のようでした。

親は子どもの心配をするものです。

子どもがいくつになろうとも、大なり小なり子育てに心配はつきものです。

が、

実はこの「心配」の裏側にある気持ちというのは、「信じていない」ということもあるんです。


「この子にはできないだろう」→ だから私がやってあげよう、準備しておいてあげよう…という行動に繋がるんですね。


「大丈夫?」と頻繁にきいてしまうことも、子どもからすると「できるって思われてないのかな」→ 「信じてくれていないのかな」と感じることに繋がります。


そうなると、子どもはお母さんに認めてもらいたくて、大丈夫な自分を装うようになってしまいます。


本当はしんどいのに、お母さんを心配させる自分はダメなんだと自分で自分にレッテルを貼り、それを隠すために振舞うようになっていくのです。


お母さんが悪いわけでも、子どもが悪いわけでもありません。


お互いに大好きだからこその、自然な流れとも言えるでしょう。


ただ、子どもって案外親が見ていないところでは、しっかりやっているものです。


大抵の場合、家庭での子どもの様子がそのまま外でも繰り広げられているわけではありません。


だから、「この子なら大丈夫」


そう信じて、見守っていくことが一番です。


うまくいかない事があっても、「そんなこともあるよ。次はどうしてみようか?」と笑顔で伝えられると、子どもは、お母さんに信じてもらえている安心感と、いつもうまくできなくてもいいんだという安心感を感じて、ありのままの自分を出せるようになっていきます。



お母さんの子だから大丈夫です。