子どもが直接カウンセリングを受けたのに…
子どもが学校に行かなくなってしまった時、まずはお母さんがスクールカウンセラーに相談をすることが多いのではないでしょうか。
不登校のお子さんは多くの場合、カウンセラーに会いたがらないですし、「初めて会う人にどうして自分のことを話さなきゃいけないの」と抵抗感を持つ傾向にあります。
それでもお母さんや担任の先生の説得の甲斐あって(?)、子ども本人がカウンセリングを受けても、残念なことに不登校が解決することはほとんど期待できません。
現に私がこれまで携わってきた不登校経験のある高校生やその親御さんのお話しを聞くと、みなさん口を揃えて「不登校は解決しなかった」と言うのです。
なぜ…?
不思議に思って詳しく聞いてみると、「そういうことか…」と、残念ながら納得できました。
「あなたはそのままでいいのよ」に潜む危険
不登校の理由はさまざまですが、多くの場合、これと特定できる出来事以外は、先生と合わない、お友だちと合わない、勉強についていかれない…この辺りで悩み始めるようです。
例えば人間関係がうまくいかずに悩んでいる子どもの場合、自分はどうしてうまくつきあえないんだろう…などと考えたり、子どもによっては環境や相手を責めて怒りが収まらずにいることもあります。
そんな悩みをスクールカウンセラーに話してみると、「あなたはそのままでいいのよ」と言われることがよくあるそうです。
カウンセラーからしてみれば、思い悩んでいる子どもを受容して、励ますための言葉がけなのですが、優しそうに聞こえて実は危険な言葉なのです。
「そのままでいい」ということは、「あなたは変わらなくていい」ということです。
自分を変えずして、「学校に行かれない」という事実を変えることができるのか?と、子どもながらに不信に思ってしまうのです。
実際に私に話してくれた生徒たちも、「変わらなくていいって言われたけど、そんなわけないだろって心の中で思ってました」と本音を教えてくれました。
中には、その言葉を鵜吞みにして、来る日も来る日も家でゲームをして過ごし、出かけたくなったら出かけ、2年ほど何もしない生活を送っていたという生徒もいました。
その生徒は、中学卒業後の進路を決める時期になってようやく、「流石にこのままでいいはずない」と自ら気づき、ようやく自分が変わらなければならないと動きだしたそうです。
こんな言葉にも要注意
「しばらく見守りましょう」
「好きなことを思いっきりさせてあげてください」
「本人のペースでいきましょう」
スクールカウンセラーはこのようなセリフを言うことも多々あります。
そう言われると、親としては「スクールカウンセラーが言うのだから」と、当然その言葉を信じて言われた通りにするでしょう。
しかし、この言葉通りにして、不登校が解決することはまずありません。
不登校を招いている原因の一つに、精神疾患を発症している場合には、これらの言葉は有効です。心と体のバランスが崩れてしまっている状態なのですから、まずはそこをしっかり治すことが先決です。
そのためには、とにかく心と体を休めること。
しかし、特にそういった診断が出ていないのであれば、これらの言葉を鵜呑みにしてしまうと、不登校から抜け出せることはないでしょう。
お母さんは心の安全基地
私は教育から福祉の世界へ飛び込んだので、しばらくは福祉的な考え方を理解し実践するのに少々戸惑いがありました。
教育はその字の通り「教えて育てる」わけですが、福祉は、「助けて支える」ことを重視します。
その両方を実践してきた今では、それぞれのいいところを取り入れて、ケースバイケースで使い分けられるので非常に有効的ですが、実はスクールカウンセラーのカウンセリングを受けることよりも、不登校を解決するためには欠かせないことがあるのです。
それは、お母さんの心の安定です。
不登校の理由はさまざまにせよ、多かれ少なかれ、学校で何かしらうまくいかなかったり、自分の思い通りにならないことが「学校に行くのが嫌だ」と思わせているわけです。
でも、現実的に、小中学生のうちから「好きな事だけをやらせておけばいい」とか「あなたは変わらなくていい」なんていう言葉通りにしていたら、将来どうなってしまうでしょうか?
家から一歩外に出れば、思い通りにならない事なんて山のようにあるし、社会に出れば(学校でも)理不尽な事だらけです。
将来自立して生活するようになれば尚のこと、人との関わりを持たずに収入を得ることなんてできません。
ということは、苦手なことでも工夫して乗り越えたり、嫌なことでも頑張って克服したり、関わりを持ちたくない人とも多少は我慢してうまくつきあう方法を身につけるということは、必要不可欠です。
学校はそういったことを練習する場所でもあるわけです。
そこで重要なのが、「お母さん」という、子どもにとっての心の安全基地なのです。
外(学校)で悲しいことや辛いこと、嫌なことがあった時、家でそれを癒してくれるのは、お母さんの穏やかな心なのです。
お母さんにはいつも心穏やかであってほしい
…とはいえ、プレッシャーに感じないでくださいね。
「お母さんがいつも笑顔でいなきゃいけない」ということではありません。
もちろん毎日楽しそうに笑顔が絶えないお母さんだと、お子さんだけでなくご家族みんながいい雰囲気で楽しく過ごせるのだと思いますが、お母さんの喜怒哀楽を表現することも大切です。
お母さんだって、辛いときは「辛い」と言葉にしていいんです。…というよりも、そうやって自分の心に正直になって、気持ちを言葉にするのはとっても大切なことです。
でも、お母さんのメンタルヘルス(心の健康)と子育てが深く関係しているのは事実です。
お母さんのメンタルヘルスが良いと…
① 落ち着いた態度で子育てができ、子どもの気持ちを受け止められる
② 子どもとの信頼関係を築きやすく、安心感を与えられる
③ 子どもの成長段階に合わせた適切な対応ができる
④ ストレス耐性が高く、子育ての辛さにも前向きに立ち向かえる
⑤ 自分自身の育児スキルを高められる余裕がある
一方、お母さんのメンタルヘルスが損なわれていると…
① 不安定な感情でイライラしやすくなる
② 子どもに受容的になれず、叱りつけたり冷たくなったりする
③ 子どもの発達段階を無視した対応をしがち
④ ストレスに強くなれず、親の役割を果たせなくなる
⑤ 子育ての辛さに耐えられず、虐待などのリスクも
つまり、お母さんの心の健康が保てれば、子育ての質が高まり、子どもの健全な成長が促されます。逆に、メンタルヘルスが損なわれれば、子育てにも悪影響が出てしまうのです。
スクールカウンセラーはお母さんのメンタルケアまではしてくれない
スクールカウンセラーは基本的に児童生徒のメンタルケアが主な業務です。
お子さんに関するお母さんの相談には乗ってくれますが、お母さんの心のケアは支援の対象外です。
お母さんの心の不安を全て肯定的に聞いてくれるとは思いますが、話を聞いてもらうことで得られる一時的な安堵でしかないでしょう。
今の悩みの根本的な原因に迫ったり、何かの気づきを得られたり、心のマネジメントといったスキルを教えてはくれません。
スクールカウンセラーのカウンセリングからしばらく経つと、また同じ不安に襲われてしまうんですね。
お母さんの心が穏やかでいられる方法を身につけると、自然とお子さんの意識や行動も変わってきますよ。